Vol.101事業撤退

MRTが非中核事業を手放す理由|医療人材へ集中する選択と集中

2026年9月8日
5 min read
#事業撤退#選択と集中#MRT

運営:株式会社BELLET · 更新日:

EXIT
Letters by BELLET

MRTをめぐる事業の見直しを題材に、1. 直近の事例を調査する(企業名、事業内容、経緯を整理) 今回取り上げるのは、MRT株式会社が2026。撤退・売却の背景と経営資源の再配分を整理し、変化の兆しを捉えて次の成長へつなげる視点を考えます。

1. 直近の事例を調査する(企業名、事業内容、経緯を整理)

今回取り上げるのは、MRT株式会社が2026年5月26日に公表した事業ポートフォリオ見直しです。MRTは医師紹介を中核とする医療プラットフォーム企業ですが、この日に、連結子会社である「医師のとも」を通じて保有していた株式会社「医師たちとつくる」の全株式を、同社代表に譲渡すると発表しました。譲渡価額は1,600万円、実行日も同日の5月26日です。
対象会社の「医師たちとつくる」は、商品の企画、開発、販売を手がけていました。IR資料によれば、獣医師監修による商品開発や販売を進めてきた一方で、継続には広告宣伝費や商品開発費など、今後も継続的な投資が必要でした。MRTはここで、グループ全体の事業ポートフォリオを見直し、資本効率の向上と経営資源配分の最適化を目的に、売却を決めています。
注目したいのは、これが単独の整理ではなかったことです。同じ5月26日の開示文書には、5月中に婚活サービスを運営する株式会社ドクターズブライトの株式売却で連結範囲から外したこと、さらに6月30日で「ネット医局」サービスを終了予定であることも記されています。ネット医局は、医局のスケジュール管理や情報共有を支援するサービスです。つまりMRTは、複数の非中核事業を同時に見直しながら、事業の軸を引き直している最中だと読めます。
その一方で、MRTは縮小だけをしているわけではありません。2026年3月31日に公表した成長可能性資料では、医療人材紹介を核に、自治体向けBPO、医療情報提供、M&A・事業承継支援、さらにASEANでの医療人材プラットフォーム拡大を進める方針を示しています。5月26日の業績予想修正でも、売上収益見通しは43億円から39.5億円へ下がる一方、営業利益は1.95億円へ、親会社株主に帰属する当期利益は1.29億円へ上方修正されました。売上の量を少し削ってでも、利益の出る形へ寄せる判断だったことが数字にも表れています。

2. 事例を元に分析する(撤退・転換理由、市場環境、競合、内部要因、意思決定のタイミングと判断基準)

この見直しの理由は、とても率直です。IRには、売却対象事業について「市場分析、商品開発、消費者向けマーケティングのノウハウの蓄積が十分とは言えない」と書かれています。医療人材や医療機関向けの課題解決で強みを築いてきた会社が、消費者向けの物販やPR、婚活のような周辺領域まで広げたとき、同じ「医療に近い」テーマでも勝ち筋は大きく変わります。そこに必要なのは、医師ネットワークだけではなく、ブランド設計や広告運用の筋力です。
市場環境も、周辺事業にやさしい状況ではありません。広告費は上がりやすく、ECやマッチングサービスは競争が激しく、顧客獲得コストが重くなりやすい。しかもMRT本体は、国内の医療人材不足や地域偏在、自治体の医療体制整備、海外での医療DX需要など、コア事業側にむしろ大きな追い風があります。成長余地の大きい本業が目の前にあるとき、関連性の薄い新規事業へ同じ温度感で投資を続けるのは、経営として説明しにくくなります。
内部要因としては、限られた人材と資金をどこに置くかが決定的だったはずです。MRTは成長資料で、グループ各社のプラットフォーム連携や共通ID化、自治体向けBPOの拡大、ベトナムを起点にしたASEAN展開を掲げています。つまり2026年は、周辺事業を抱え込む年ではなく、基盤を束ね直して伸ばす年です。第1四半期決算を出し、4月単月の医師紹介売上が強かったことを確認した直後に、非中核事業の整理と通期予想の見直しを合わせて示した点にも、その意図がにじみます。

3. どうすればよかったかを考える(早期シグナル、別の選択肢、リソース配分や戦略の改善点)

では、もっと早い段階で何ができたのでしょうか。まず見逃したくない早期シグナルは、「事業の関連性は語れるが、再現性のある勝ち方がまだ見えていない」状態です。医療という共通テーマがあると、一見するとシナジーがありそうに見えます。ただ、誰に、何を、どう売るのかが本業と大きく違うなら、必要な組織能力も変わります。このズレが続くと、現場は忙しいのに、会社全体としては学習が蓄積しにくくなります。
別の選択肢としては、完全に手放す前に、外部パートナーとの共同運営や小さな実証にとどめる方法もあったはずです。BtoC色の強い事業は、最初から自前で広告費を積み上げるより、専門プレイヤーと組んで検証したほうが、撤退コストを小さくできます。また、社内で育てるなら「3年で黒字化できるか」「本業顧客への送客導線が作れているか」を、もっと厳しく見てもよかったでしょう。
ネット医局についても、終了の前に取れる手はあったかもしれません。たとえば単独サービスとして続けるのではなく、医師紹介やBPO、医療機関向け管理機能と束ねて再設計する道です。成長資料には、まさにグループ横断での連携強化が書かれています。もし早い段階で単体採算ではなく、プラットフォーム全体の入口として位置づけ直せていれば、違う残し方もあったかもしれません。

4. 今後の道筋や教訓を考えてみる(他企業への示唆、撤退を戦略的判断として捉える視点、次の挑戦への教訓)

この事例の大事なところは、撤退や売却を「縮んだ話」とだけ見ないことです。MRTは売上見通しを下げながら、利益見通しを上げました。これは、やめる判断が会社を弱くするとは限らず、むしろ強くすることがあると示しています。新規事業が増えてきた企業ほど、何を育てるかと同じくらい、何を持ち続けないかが重要になります。
他企業への示唆もはっきりしています。第一に、周辺事業へ広げるときは「顧客が近い」だけでなく、「勝ち方が近いか」を見ること。第二に、撤退判断は業績悪化を待ってからでは遅く、コア事業への再投資機会が見えているうちに行うほうが選択肢が増えること。第三に、整理と成長戦略を同時に語ることです。やめる話だけでは社内も市場も不安になりますが、空いた資源をどこへ振り向けるのかまで示せれば、撤退は前向きな意思決定になります。
失敗を責めるより、学びとして受け取りたいのはここです。事業は始めるより、続け方を選び直すほうが難しい。けれど、その難しい判断を先延ばしにしない会社ほど、次の挑戦に向かう体力を残せます。MRTの今回の見直しは、やめることそのものより、「本当に伸ばしたい領域はどこか」を静かに言い直した出来事として見ると、示唆の多い事例だと思います。

参考資料

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 株式会社BELLETは、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

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