Vol.218事業売却・譲渡

ResmedのMatrixCare売却──最適オーナーへの譲渡で、次の成長をつくる

2026年9月8日
9 min read
#事業転換#事業撤退#事業売却

運営:株式会社BELLET · 更新日:

EXIT
Letters by BELLET

ResmedのMatrixCare売却を題材に、事業の売却・撤退・再編に至った背景と経営判断を分析。市場環境や資本配分を踏まえ、企業が事業を見直し次の成長へ資源を移すための論点を考えます。

1. 直近の事例を調査する(企業名、事業内容、経緯を整理)

2026年7月7日、睡眠・呼吸ケア領域の医療技術会社Resmedは、介護・在宅医療向けソフトウェア事業であるMatrixCareを、ヘルスケア専門の投資会社Frazier Healthcare Partnersへ売却する最終契約を結んだと発表しました。SECに提出された8-Kでは、取引額は4億9,000万ドルの全額現金取引とされ、通常の調整を経て、Resmedの2027会計年度第1四半期中の完了が見込まれています。
MatrixCareは、介護施設、シニアリビング、長期ケア、在宅医療、ホスピスなど、病院の外側で使われる電子カルテや業務ソフトを提供する事業です。Resmedの発表によれば、1万5,000以上のプロバイダーを支えるソフトウェア群で、Healthcare First、Citus、在宅医療・ホスピス向けソリューションも今回の対象に含まれます。一方で、米国のBrightreeやドイツのMEDIFOX DANといった他のソフトウェア事業は売却対象外です。
この売却は、Resmedが2024年に示した2030年戦略の延長線上にあります。同社は睡眠時無呼吸症候群を中心とした睡眠ヘルス、呼吸ヘルス、在宅ケアを、機器・クラウド・AIを組み合わせたエコシステムとして伸ばす方針を掲げてきました。MatrixCareは良い事業ではありますが、長期介護・ポストアキュートケアという、やや別の運営リズムを持つ領域です。Resmedは今回、そこを切り出すことで、成長投資と経営の焦点をより絞ろうとしています。

2. 事例を元に分析する(撤退・転換理由、市場環境、競合、内部要因、意思決定のタイミングと判断基準)

今回の売却は、「不振事業を手放した」というより、「良い事業でも、次の戦略の中心に置くかを見直した」事例として見るのが自然です。MatrixCareは2026年度の予備的な数字で約2億2,000万ドルの売上、約5,500万ドルの非GAAP営業利益を生んでいたと8-Kに記載されています。利益を出している事業を売る判断には、単純な損益だけでは見えない理由があります。
第一に、市場の成長テーマが少し違います。Resmed本体が強く打ち出しているのは、睡眠・呼吸の診断、治療、継続利用をデータでつなぐ世界です。CPAPなどの機器、クラウド接続、患者体験、医療者の管理効率を一体で高めることが軸になります。一方、MatrixCareが向き合う長期介護・在宅医療ソフトは、施設運営、請求、ケア記録、規制対応など、業務基盤としての深さが求められます。どちらも在宅ケアに関わりますが、競争相手も、営業先も、製品改善の優先順位も異なります。
第二に、資本配分の問題があります。Resmedは売却収入を株主還元や一般事業目的に使う方針を示しています。同時期にはNoctrix Healthの買収も完了しており、睡眠ヘルスの臨床ポートフォリオを広げています。つまり、売却で得た余力を、より中核に近い領域へ振り向ける流れです。限られた経営資源をどこに置くかは、会社の未来像そのものです。MatrixCareを持ち続けることは可能でも、持ち続けることで他の投資の速度が落ちるなら、手放す合理性が出てきます。
第三に、買い手との相性もあります。Frazierはヘルスケア専門の投資会社で、ポストアキュートケア技術領域を長く見てきたと説明しています。MatrixCareにとっては、大企業の一部門でいるより、長期介護・在宅医療ソフトに集中する所有者のもとで、製品投資や営業戦略を進めやすくなる可能性があります。撤退は売り手だけの都合ではなく、事業が次に育つ場所を選ぶ行為でもあります。
判断のタイミングとしては、2030年戦略を示した後、対象事業の収益性、他ソフトウェア事業との違い、睡眠・呼吸領域への集中度を整理できた段階だったと考えられます。売却価格、移行サービス契約、残るコストの処理まで同時に示している点からも、思いつきではなく、事業を切り出した後の姿まで設計した判断だといえます。

3. どうすればよかったかを考える(早期シグナル、別の選択肢、リソース配分や戦略の改善点)

この事例から考えたい早期シグナルは、「隣接領域に見える事業が、本当に同じ経営リズムで伸びるのか」という問いです。買収や新規事業では、顧客が近い、データが近い、在宅医療という言葉が同じ、といった理由でシナジーを描きがちです。しかし実際には、顧客の購買プロセス、規制対応、製品ロードマップ、サポート体制が違えば、同じ会社の中にあっても別々の筋肉が必要になります。
Resmedにとって、もっと早くできたことがあるとすれば、MatrixCareを「在宅ケア全体のソフトウェア事業」として広げるのか、それとも「睡眠・呼吸エコシステムに直接つながる事業」へ絞るのかを、より早い段階で明確にすることだったかもしれません。広げるなら、介護・施設向けソフトをさらに買い足し、独立した成長単位として投資する道があります。絞るなら、BrightreeやMEDIFOX DANのように中核との結びつきが強い事業を残し、MatrixCareのような長期介護向け基盤は外部資本に委ねる道があります。
別の選択肢としては、完全売却ではなく、少数持分を残す、合弁会社化する、あるいは一部製品だけを切り出す方法もあり得ました。ただ、こうした形は関係を残せる一方で、意思決定が複雑になりやすい面があります。今回のように対象範囲を明確にし、BrightreeとMEDIFOX DANは残すと線引きしたことは、社内外にとって分かりやすい判断だったといえます。
改善点としては、売却後の顧客体験を丁寧に管理することが重要です。介護・在宅医療の現場では、ソフトの変更や所有者変更が業務不安につながりやすいからです。Resmedは完了までMatrixCareを通常運営し、移行サービス契約でシステムや日常業務の継続性を確保するとしています。このように、撤退を発表で終わらせず、移行の不安を減らす設計まで含めることが、良い事業売却には欠かせません。

4. 今後の道筋や教訓を考えてみる(他企業への示唆、撤退を戦略的判断として捉える視点、次の挑戦への教訓)

ResmedのMatrixCare売却が教えてくれるのは、撤退や売却は「負け」ではなく、会社の輪郭を描き直すための道具だということです。特に成長企業では、事業が増えるほど、何をやる会社なのかが少しずつぼやけます。良い事業をいくつも持つことは一見強みに見えますが、経営陣の時間、開発投資、営業の集中力、ブランドの伝わり方は分散します。
他企業への示唆は、事業を評価するときに「黒字か赤字か」だけで判断しないことです。見るべきなのは、その事業が会社の未来像にどれだけ近いか、他の事業と同じ顧客価値を作っているか、投資したときに本体の強みが本当に効くかです。黒字でも戦略の中心から遠ければ、よりふさわしい持ち主に渡した方が、売り手にも買い手にも顧客にも良い結果になることがあります。
また、撤退の質は、残すものの説明で決まります。ResmedはMatrixCareを売る一方で、睡眠ヘルス、呼吸ヘルス、接続型の在宅ケアに集中する方針を改めて示しました。これは、単に「売りました」ではなく、「だから何に集中します」という説明です。撤退の発表で大切なのは、失うものではなく、次に強くするものを明確にすることなのだと思います。
事業転換は、痛みを伴うこともあります。ただ、その痛みは必ずしも失敗の証ではありません。むしろ、過去の選択を尊重しながら、今の環境に合わせて会社の形を整える作業です。ResmedにとってMatrixCareは、成長の途中で意味のある役割を果たした事業でした。そして今は、別の所有者のもとでより専門的に育つ可能性があります。撤退を責めるのではなく、次の成長のために何を残し、何を託すのか。その問いを持てる会社ほど、変化の時代にしなやかに進んでいけるのだと思います。
---

English version

On July 7, 2026, Resmed announced an agreement to sell MatrixCare to Frazier Healthcare Partners. The SEC filing shows a \$490 million all-cash transaction, expected to close in the first quarter of Resmed's fiscal 2027. MatrixCare provides software for skilled nursing, senior living, long-term care, home health and hospice providers, serving more than 15,000 provider organizations.
This is not simply a case of selling a weak business. MatrixCare had roughly \$220 million in preliminary fiscal 2026 revenue and about \$55 million in non-GAAP operating profit. The more useful way to read the deal is as a portfolio decision: Resmed is choosing to focus more tightly on sleep health, breathing health and connected home-based care, while moving a solid but somewhat different software business to an owner focused on post-acute care technology.
The key lesson is that adjacent businesses are not always strategically central businesses. Two activities may both sit under the broad label of home healthcare, but they can require different customers, product roadmaps, support models and investment logic. When those differences become large, keeping everything inside one company can slow decision-making and dilute attention.
Resmed also shows the importance of explaining what remains. The company did not only announce a sale; it connected the divestiture to its 2030 strategy, clarified which software assets are excluded, and described how transition services will support continuity. A good exit is not just a financial transaction. It is also a communication exercise with customers, employees and investors.
For other companies, the practical question is not only whether a business is profitable. The deeper question is whether the business belongs at the center of the future company. If the answer is no, a sale can be a thoughtful strategic choice rather than a retreat. Resmed's MatrixCare decision reminds us that sometimes the healthiest growth comes from deciding what to carry forward and what to entrust to someone better positioned to develop it.

参考資料

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 株式会社BELLETは、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

この記事についてLINEで相談するご相談内容はLINE公式アカウントで承ります。

この記事が役に立ったらシェアしてください

Contact

EXIT戦略について相談する

M&A・事業売却・事業承継に関するご相談・ご質問はお気軽にどうぞ。

フォームが表示されない場合は、LINEの相談窓口をご利用ください。

Newsletter

メール登録の受付を一時停止しています

メールの新規登録は一時停止しています。
公開中のレターは引き続きサイトでお読みいただけます。
ご相談・お問い合わせはLINEからご連絡ください。

LINEで問い合わせる
LINEで相談する