Vol.265事業売却・譲渡

養命酒製造「くらすわ」事業の譲渡──最適オーナーへの譲渡で、次の成長をつくる

2026年9月8日
8 min read
#事業転換#事業撤退#事業売却

運営:株式会社BELLET · 更新日:

EXIT
Letters by BELLET

養命酒製造「くらすわ」事業の譲渡を題材に、事業の売却・撤退・再編に至った背景と経営判断を分析。市場環境や資本配分を踏まえ、企業が事業を見直し次の成長へ資源を移すための論点を考えます。

1. 直近の事例を調査する

2026年5月13日、養命酒製造は、食と健康をテーマに展開してきた「くらすわ」関連事業を再編すると発表しました。事業の一部を新設会社「株式会社くらすわ」に移し、その全株式を山田養蜂場本社へ譲渡する計画です。会社分割と株式譲渡の実行予定日は7月31日。対象は、飲食店や物販を中心とする事業で、2026年3月期の売上高は6億3,500万円でした。一方、レジャー施設「くらすわの森」と通信販売は新会社への承継対象から外れ、また一部店舗は休止されます。
「くらすわ」は2010年に始まり、「広げる、すこやかなくらしの輪」を掲げて、安心できる食やサービスを届けてきたブランドです。薬用養命酒で知られる会社が、健康をより身近に感じてもらう接点として育ててきた取り組みともいえます。今回の相手である山田養蜂場本社は、はちみつ・自然食品・健康食品の研究、開発、製造、販売を手がけています。養命酒製造は、ブランドをより広い資源を持つ相手のもとで展開することで、顧客への提供価値を高める考えを示しました。
背景には、養命酒製造の非公開化と親会社変更を伴う大きな再編があります。開示では、最終的にツムラを唯一の株主とする予定であり、「くらすわ」事業はツムラ以外の第三者へ譲渡し、譲渡が実現しなければ縮小・撤退する方針だったと説明されています。つまり、これは業績が悪いから単純に閉じるという話ではありません。会社全体の将来像が変わる局面で、ブランド、従業員、店舗、顧客との関係をどこで引き継ぐことが最もよいかを探したうえでの、事業の引っ越しです。

2. 事例を元に分析する

今回の判断を理解する鍵は、「良い事業か」と「自社にとって持ち続けるべき事業か」は同じ問いではない、という点にあります。飲食・物販は、医薬品や酒類の製造販売とは、店舗運営、人材配置、商品の仕入れ、地域との関係づくりなどで異なる運営力を求めます。健康という大きな方向性は共有していても、日々の競争の仕方は違います。外食では原材料費や人件費、来店客数、出店場所の魅力が収益を左右し、物販では品ぞろえ、物流、通販との連携が重要です。ブランドを大切に育てるには、単に資金を配るだけでなく、その運営に十分な経営時間を使えることが必要になります。
また、非公開化に伴って企業の所有構造が変わると、各事業が新しいグループの中で担う役割を改めて見直す必要があります。ここで「以前からある事業だから残す」と決めると、引継ぎ先を探す時間も、事業の価値を整理する時間も失われます。養命酒製造は、譲渡先が見つからない場合の縮小・撤退という選択肢を明示しながら、健康食品の開発・製造・販売に強みを持つ山田養蜂場本社を選びました。これは、撤退の可否を最後に決めるのではなく、事業を最も伸ばせる「ベストオーナー」を探すことを先に置いた判断です。
意思決定のタイミングにも学びがあります。親会社変更が完了してから慌てて扱いを決めるのではなく、5月に分割と譲渡を決議し、7月末の実行予定日までに契約、資産・債務、店舗、契約関係を切り分ける設計を示しました。新設分割は、譲る範囲を明確にして事業を渡しやすくする方法です。すべてを一括で手放すのではなく、「くらすわの森」と通信販売を除外した点にも、残すものと託すものを具体的に選ぶ姿勢が表れています。

3. どうすればよかったかを考える

この事例から「もっと早く撤退すべきだった」と結論づける必要はありません。十数年にわたり築いたブランドには、数字だけでは測れない顧客の信頼や地域とのつながりがあります。むしろ改善の余地があるとすれば、平時から事業ごとに「親会社が変わっても、この事業を自分たちが最もよく育てられるか」を問い続けることです。売上や利益だけでなく、必要な専門人材、経営陣の関与時間、投資の優先度、顧客に届ける価値を並べて見ると、事業の相性は早く見えてきます。
早期シグナルとしては、主力事業と異なる運営能力が増え続けること、成長投資の優先順位が社内で下がること、店舗・商品・オンライン販売のどこへ投資すべきかが曖昧になることが挙げられます。その段階で、閉鎖か継続かの二択にしないことが大切です。共同開発、業務提携、店舗運営の委託、少数持分の提携、事業譲渡など、顧客価値を残す選択肢は複数あります。今回のように、事業を切り出してから譲渡する方法は、買い手にとって何を引き継ぐのかを分かりやすくし、従業員や取引先との対話もしやすくします。
一方で、譲渡の検討は資本政策だけで終わらせられません。店舗の利用者にとっては、看板の変更、営業時間、商品の継続、ポイントや予約などが生活に近い問題になります。従業員にとっては、雇用条件、職場、仕事の意味が変わるかもしれません。譲渡の価値を本当に高めるには、財務資料だけでなく、ブランドの約束、地域の取引先、運営ノウハウを引継ぎ項目として言語化し、移行後も確認する仕組みを用意する必要があります。

4. 今後の道筋や教訓を考えてみる

「事業を手放す」は、育ててきたものを否定する行為ではありません。自社だけで抱え続けるより、その事業を主役として扱える相手に託すほうが、ブランドも顧客も次の成長機会を得られる場合があります。今回のくらすわの事例は、撤退を終わりにせず、所有者を変えて事業の居場所をつくり直す、戦略的な判断の一例です。
他の企業にとっての教訓は三つあります。第一に、ポートフォリオの見直しでは赤字・黒字だけでなく、誰が持つと最も価値を伸ばせるかを基準にすること。第二に、縮小・撤退の可能性を早めに認めることで、譲渡や提携の交渉力を失わないこと。第三に、残す事業と託す事業の境界を具体的に設計することです。すべてを残す、すべてをやめる、の間には多くの選択肢があります。
変化の最中にある経営には、数字の合理性と、人への配慮の両方が求められます。次の挑戦に資源を振り向けながら、これまで積み上げた信頼を別の形で生かす。そんな事業転換であれば、撤退は後ろ向きな敗北ではなく、事業と関係者の可能性を広げるための前向きな節目になり得ます。
そして重要なのは、譲渡後を「契約が終わった日」で区切らないことです。新しいオーナーのもとで、顧客に何が変わり、何が変わらないのか。従業員の知恵や地域での評判が、どのように次の運営へ受け継がれるのか。こうした点を移行期間に丁寧に確かめることが、売り手にも買い手にも長い目で見た価値をもたらします。事業の見直しは、資産を入れ替える作業だけではなく、約束を受け渡す仕事でもあります。
また、経営者が早い段階で「この事業を残す理由」を言葉にしておくと、手放す場合にも判断がぶれにくくなります。自社の成長のために必要なのか、顧客への約束として必要なのか、それとも別の企業が担うほうが大きく育つのか。定期的な問い直しは、撤退を急がせるためではなく、選択肢を豊かにするための準備です。くらすわのようなブランドを託す決断は、その準備があるからこそ、関係者にとって納得しやすい次の一歩になります。
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English version

1. A recent case

On May 13, 2026, Yomeishu Seizo announced the restructuring of its "Kurasuwa" food-and-wellness business. It plans to transfer part of the business to a newly established company, Kurasuwa Co., Ltd., and sell all of its shares to Yamada Bee Farm Honsha. The planned effective date for both the company split and share transfer was July 31. The transferred business, centered on restaurants and retail, recorded sales of ¥635 million in the fiscal year ended March 2026. The Kurasuwa no Mori leisure facility and mail-order business are excluded, while some stores will be suspended.

2. What the case tells us

This is not simply a closure caused by poor performance. As Yomeishu moves through a privatization and ownership transition, it is redesigning the role of each business. Food retail and restaurant operations require different capabilities from pharmaceutical and alcoholic-beverage manufacturing: store operations, sourcing, staffing, and local customer relationships. Yomeishu stated that it sought a "best owner" and that, without a third-party transfer, it would shrink or exit the business. Choosing a company with broader capabilities in natural foods and health products reframes divestiture as placing the brand where it can receive more focused attention.

3. What could be improved

The lesson is not that the business should necessarily have been exited earlier. A long-built brand carries trust that cannot be reduced to a financial metric. The better practice is to ask in normal times whether the company remains the best owner as the business's required capabilities evolve. Early signals include declining management attention, unclear investment priorities across stores, products, and online channels, and a growing mismatch with the core business. The answer need not be an all-or-nothing closure: partnerships, outsourced operations, minority investments, and a carved-out sale can all preserve customer value.

4. The road ahead

Letting go of a business does not negate the work that built it. When another owner can make that business a strategic priority, a transfer can create a fresh path for the brand, customers, employees, and partners. The Kurasuwa case suggests three principles: assess not only profit but also best ownership; preserve negotiating options by recognizing a possible exit early; and define clearly what stays and what is entrusted. Strategic exits can be constructive milestones that free resources for the next challenge while carrying forward hard-won trust.

参考資料 / Sources

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 株式会社BELLETは、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

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