Vol.370事業売却・譲渡

better相続の事業譲渡—専門知識の近さと、顧客へ届ける力を分けて考える

辻・本郷ITコンサルティングの判断から、隣接事業の販売基盤と次の担い手を考える

2026年10月11日
8 min read
#事業譲渡#選択と集中#相続DX

運営:株式会社BELLET · 更新日:

30 Second Brief

何が起きたか
辻・本郷ITコンサルティングが、個人と会計事務所向けの相続支援サービスをMILIZEへ譲渡すると発表した。
判断の理由
会社は中核事業との顧客層の違いを説明。専門的な販売基盤を持つ相手のもとで成長を図る判断とした。
自社への示唆
専門知識を共有できるかに加え、顧客が利用を決めるまでの道筋を調べ、自社保有・提携・譲渡を比較する。
EXIT
Letters by BELLET

辻・本郷ITコンサルティングが「better相続」のMILIZEへの譲渡を発表。同じ専門知識を使えても、顧客へ届ける仕組みは異なります。製品の価値を生かす所有者の選び方を考えます。

1. 直近の事例を調査する

2026年9月28日、辻・本郷ITコンサルティングは、個人向けの「better相続」と、会計事務所向けの「better相続 for 会計事務所」をMILIZEへ譲渡すると発表した。相続の手続きをデジタル化する二つのサービスが対象で、開示上の譲渡予定日は9月30日である。本稿は10月3日に確認した発表資料に基づき、予定日の経過だけをもって譲渡完了とは断定しない。

会社が説明した理由は、企業の経理・人事などをデジタル化する中核事業と、相続サービスでは顧客層や事業の性質が異なることだ。さらに成長するには、専門的な販売基盤やマーケティングの力を持つ相手のもとで展開することが有効と判断したという。売却価格は非公表。対象事業の2025年9月期の営業利益は1,100万円であり、少なくとも開示された期の赤字を理由にした売却ではない。公式開示

ここまでが公表事実である。以下は編集部の見立てとして、同じ専門知識を使う事業でも、顧客に届ける仕組みまで共通とは限らない、という点を考えたい。開発や営業に関わった人の努力を否定せず、その努力がより多くの利用者に届く条件を探る事例として読む。

2. 事例を元に分析する

編集部が注目するのは、製品の近さと、商売の近さの違いだ。会計や税務に関する知識は、企業の業務改善にも、個人の相続にも役立つ。しかし、誰が必要性に気づき、誰が料金を払い、どの場面で利用を決めるかは違う。同じ知識を使えるという理由だけでは、同じ営業体制で伸ばせるとは言い切れない。

例えば企業向けの業務支援なら、担当者への提案から社内の検討を経て導入する流れが考えられる。個人の相続支援なら、必要になった時点で初めてサービスを探す人もいるだろう。会計事務所向けには、既存の仕事の進め方との相性を示す必要もある。これは当該事業の顧客行動を調査した結果ではなく、異なる顧客群を評価するための仮説である。

この違いを曖昧にすると、機能追加がいつの間にか販売上の課題への代用品になる。利用者が増えない理由が、機能の不足なのか、存在を知られていないことなのか、使い始める不安なのかで、必要な手当ては変わる。開発者が改善を重ねても、その前段階で顧客が立ち止まっているなら、努力が成果として見えにくくなる。

黒字であっても、この問いは残る。今の運営で利益が出ることと、次の顧客を獲得する仕組みに十分な人手を割けることは、別の判断だからだ。ただし、本件の販売費や顧客獲得費の詳細は確認できていない。非効率だったと決めつけるのではなく、会社が明示した顧客層と販売基盤の違いから、所有者との相性を考えるのが妥当だろう。

譲渡の意味も、その相性で評価したい。売り手にとっての中核から外れることは、社会にとっての価値が小さいことを意味しない。必要な利用者へ届ける力が別の会社にあるなら、事業を託すことは、育てた製品への責任を果たす選択になり得る。一方、その期待が実現したかどうかは、譲渡後の利用状況を見なければ分からない。

3. どうすればよかったかを考える

公開情報だけでは、これまでの経営判断の良し悪しは判定できない。ここでは、同じように専門知識を生かして新規事業を始める会社への提案として考える。最初に作りたいのは、機能一覧に加えて「顧客が利用を決めるまでの道筋」の一覧だ。知る、比較する、試す、契約する、使い終えるという各段階で、誰が支援し、どれだけ時間が必要かを記録する。

その記録は顧客群ごとに分ける。個人向けと事務所向けの数字を合算すると、一方の好調が他方の課題を隠す可能性がある。問い合わせから利用開始までの割合、利用開始後に支援を要した時間、紹介経由で来た人の割合など、現場が改善に使える少数の項目を選ぶ。登録者数だけを追うより、どこで困っているかを話しやすくなる。

次に、成長のための選択肢を同じ表で比べる。自社で販売担当を増やす、外部と販売提携する、事業そのものを譲る。それぞれについて必要な費用、実行までの時間、利用者への影響を置く。譲渡だけを特別な最終手段にすると、比較が遅れやすい。選択肢を早く並べることは、売却を急ぐことではなく、判断の余裕を持つことにつながる。

相手の販売力も、抽象的な期待のままにしない。「顧客基盤が広い」だけでは、実際に相続サービスへ案内できるか分からない。どの窓口から、誰に、どの説明で紹介するのか。小さく試した結果を確認できれば、提携にも譲渡にも具体的な根拠ができる。これは本件で試行がなかったという指摘ではなく、他社が応用する際の確認事項である。

引き継ぎでは、ソフトウェアの機能と同じ重さで、利用者を支える知識を扱いたい。よくある質問、説明に迷いやすい箇所、未解決の問い合わせ、担当者の判断が必要な場面を整理する。人が抱えていた知恵を言葉にして渡す作業にも時間を確保する。それが、これまで事業を支えた人への敬意と、新しい運営者の学習を両立させる。

4. 今後の道筋や教訓を考えてみる

編集部の見立てでは、今後見るべきものは売却の発表そのものより、顧客への届き方が変わったかどうかだ。買い手のもとで案内の窓口が増えたのか、利用を始める際の迷いが減ったのか、問い合わせに適切に応えられているのか。規模の拡大と、利用者が安心して手続きを進められることを、併せて確かめたい。

売り手側も、集中の効果を言葉だけで終わらせないことが大切だ。浮いた時間や経営陣の注意を、どの顧客のどの課題へ向けたかを確認する。譲渡後も一時的な支援が必要なら、その負担を含めて振り返る。事業数が減っただけでは、主力が強くなった証拠にはならない。

例えば移行後の一定期間に、売り手と買い手が別々の観点で振り返る機会を置ける。売り手は主力事業への人員配置や意思決定の進み方を、買い手は案内経路ごとの利用開始状況と支援負担を確認する。数字が想定に届かなければ、相手の責任を探す前に、当初の仮説のどこが違ったかを共有する。引き継ぎを学びの機会として扱えば、その後の改善にもつながる。

「自社で育てたから、自社が持ち続けるべきだ」という思いは自然なものだ。その思いを尊重しながら、次に必要な力を具体的に見極めることが経営の仕事になる。製品を生み出した価値と、次の担い手に渡す価値は両立する。今回の事例から学びたいのは、隣接する知識を持つだけで満足せず、顧客へ届く道筋まで含めて、事業の居場所を選び直す姿勢である。

参考資料(2026年10月3日確認)
- 辻・本郷ITコンサルティング:事業譲渡の適時開示(9月28日)
- ストライク:better相続事業のMILIZEへの譲渡報道(9月28日)

Sources

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 株式会社BELLETは、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

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