Vol.007事業撤退

丸住製紙、100年企業の主力事業撤退から学ぶ教訓

縮む紙需要、遅れた新規事業――撤退基準と資源再配置の実践チェックリスト

2026年9月2日
4 min read
#事業撤退#事業再生#ピボット

運営:株式会社BELLET · 更新日:

EXIT
Letters by BELLET

丸住製紙の主力洋紙事業撤退と民事再生を題材に、紙需要の縮小や新規事業の遅れを分析。撤退基準を事前に設け、資源を再配置する重要性を考えます。

はじめに――「やめる」という決断の重さ

新しい事業を始めることには、どこかワクワクする響きがあります。でも、その事業を「やめる」と決めることには、始めるとき以上のエネルギーが必要です。今回は、2025年に大きな話題となった丸住製紙の事例を中心に、事業撤退やピボットの難しさと、そこから得られる学びについて考えてみたいと思います。
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丸住製紙に何が起きたのか

丸住製紙は、1919年に設立された愛媛県の老舗製紙会社です。新聞用紙で国内シェア4位を誇り、大手商社・丸紅のグループ会社としても知られていました。100年を超える歴史を持つ「名門」と呼ばれた企業です。
しかし、紙の需要は年々縮小を続けていました。日本の新聞発行部数は2000年の約5,370万部から半分以下にまで落ち込み、書籍や雑誌、コピー用紙の需要も激減。丸住製紙の主力事業そのものが、構造的な逆風にさらされていたのです。
同社もこの危機に手をこまねいていたわけではありません。2019年以降、ペーパータオルやウエットティッシュといった衛生用品、さらにはコスメ分野への新規進出など、新たな商材への展開を積極的に進めていました。2023年11月には、コンサルティング大手の経営共創基盤(IGPI)とともに「117億円の赤字を3年で黒字転換させる」という野心的な事業再生計画も策定しています。
それでも、状況は好転しませんでした。2025年2月、丸住製紙は主力の洋紙事業からの撤退を取引先に通知。従業員500人のうち約100人が希望退職に応じ、わずか10日余りで民事再生法の適用を申請するに至りました。約590億円の負債を抱えての決断でした。
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なぜ、転換はうまくいかなかったのか

この事例を振り返ると、いくつかの要因が浮かび上がってきます。
まず、市場の構造変化のスピードです。紙メディアの衰退は誰もが認識していましたが、そのペースは予想を上回るものでした。新聞用紙という安定した「本業」が急速に縮小する中で、新規事業の成長が追いつかなかったのです。
次に、組織の慣性の問題があります。報道によれば、同社には縦割り組織の弊害があり、創業家経営のもとで大胆な構造改革が進みにくい体質がありました。新しい分野に進出しても、意思決定や実行のスピードが市場変化に追いつけなかったと言えます。
そして、ピボットのタイミングです。衛生用品やコスメへの展開は方向性としては理にかなっていましたが、本業が大きな赤字を出し続ける中での新規投資には限界がありました。もう少し早い段階で、より大胆な事業転換に踏み切れていたら――。そんな「もしも」を考えずにはいられません。
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早く気づけたシグナルはあったか

振り返ってみれば、いくつかのシグナルは確かにありました。新聞発行部数の減少トレンドは2000年代から明確でしたし、デジタル化の波は製紙業界全体に影響を与えていました。
ただ、ここで大切なのは、「後知恵」で批判することではありません。渦中にいる経営者にとって、100年続いた本業を捨てるという判断は、想像を絶するほど重いものです。従業員の雇用、取引先との関係、地域経済への影響――背負うものが大きいほど、撤退の決断は難しくなります。
一つ参考になるのは、ソニーがVAIO(PC事業)を2014年に売却した事例です。当時、PC事業は917億円もの営業赤字を出していました。ソニーは「苦渋の決断」としてVAIO事業を日本産業パートナーズに譲渡しましたが、独立後のVAIOは240人体制で再出発し、営業利益率10%という高水準まで回復しました。
この事例が教えてくれるのは、「撤退」は終わりではなく「再配置」になりうるということ。売却や分離によって、事業そのものが新たな環境で花開く可能性もあるのです。
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これからの道筋と教訓

2025年は、日本企業にとって「撤退」や「事業再編」がかつてなく身近になった年でした。休廃業・解散件数は過去最多の6万7,000件超を記録し、中国からの事業撤退も加速しています。キヤノンが広東省の工場を閉鎖し、日本製鉄が中国の合弁事業を解消するなど、グローバルな事業ポートフォリオの見直しも進んでいます。
こうした動きの中で、私たちが心に留めておきたいことがあります。
撤退は「失敗」ではなく「戦略的判断」であるということ。限りある経営資源を、より可能性のある領域に振り向ける。それは前向きな決断です。むしろ、撤退の判断ができないまま資源を消耗し続けることのほうが、長い目で見れば大きなリスクになります。
そして、撤退基準を「始める前」に決めておくことの大切さ。「2年以内に黒字化しなければ見直す」「ピボットは3回まで」といった明確な基準を事前に設けておくことで、サンクコスト(埋没費用)に引きずられない冷静な判断が可能になります。
丸住製紙の物語は、決して他人事ではありません。どんな企業にも、市場環境の変化によって「やめる」判断を迫られる日が来るかもしれない。そのとき、撤退を恥とするのではなく、次の挑戦への第一歩として捉えられるかどうか。それが、企業の真の強さを決めるのではないでしょうか。
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本コラムは2026年5月4日時点の公開情報をもとに執筆しています。

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FAQ
Q. 丸住製紙が最終的に洋紙事業から撤退した主な理由は何ですか?+

主な理由は構造的な需要縮小に対して新規事業の成長が追いつかなかったことです。新聞・出版向け紙の市場縮小が想定より速く進行し、本業の収益・キャッシュフローが急速に悪化する一方で、衛生用品やコスメ等への事業転換は規模化や収益化に時間を要しました。加えて縦割り組織や意思決定の遅さ、過去の設備投資や負債が経営の柔軟性を削いだ点も撤退を余儀なくした背景です。

Q. 事業転換(ピボット)がうまくいかなかった具体的要因は何でしょうか?+

要因は複合的です。市場の変化スピードが速かったこと、組織文化やガバナンスが変化対応を阻害したこと、新規分野でのノウハウやチャネルが不足していたこと、投下資源が分散して十分な集中投資ができなかったことが挙げられます。また外部環境(価格競争、原材料や物流費の上昇)や資金繰りの制約も成長阻害になりました。

Q. 撤退判断を早めるための「撤退基準」はどのように設定すべきですか?+

数値と期限を併せ持つ明確なKPIを事前設定することが重要です。例:3年間の累積キャッシュフローがプラスにならない、売上高CAGRが目標(例10%)を下回る、営業利益率が一定水準に達しない、投下資本の回収期間が許容範囲を超える、主要マイルストーン(顧客獲得数、チャネル構築)が期日までに未達なら撤退検討等。定性的には事業の競争優位が構築できない、外部環境が恒常的に悪化している場合も撤退トリガーにします。

Q. 従業員や取引先への影響をどう最小化すべきですか?+

早期かつ誠実なコミュニケーションと代替策の提示が鍵です。従業員には再配置、職業訓練、希望退職や早期退職制度、再就職支援を用意し、重要取引先とは継続供給や代替商品の提案、在庫・契約整理の段取りを協議します。段階的な縮小計画と明確なタイムラインで不確実性を下げることが信用維持につながります。

Q. 丸住製紙が選択した民事再生とは何を意味し、他にどんな選択肢があったのですか?+

民事再生は裁判所監督下で債務の圧縮・再編を行い事業を継続するための法的手続きです。取引関係を維持しながら債権者と再建計画を調整できます。対照的に会社更生は大規模再建向けで清算は事業売却・解散を伴います。場合によっては事業部門売却(カーブアウト)、第三者割当増資やスポンサー入り、私的整理といった代替手段も検討されます。

Q. 同じような危機にある中小・中堅企業が今すぐ取るべき現実的な対策は何ですか?+

短期ではキャッシュ管理の強化(コスト削減、運転資本の見直し、債権回収の徹底)、主要顧客と収益性の高い事業にリソースを集中すること。中期では撤退基準の設定、事業ポートフォリオの再評価、外部パートナーや販路提携の活用、技術・人材のリスキリングを進めます。長期ではガバナンス改善と意思決定速度の向上、定期的なシナリオプランニングで早期警報を作ることが重要です。

Q. コンサルや外部支援は有効か?使う場合のポイントは?+

有効ですが目的と役割を明確にすることが前提です。期待は「戦略策定」「新版事業の実行支援」「財務リストラクチャリング」「市場・販路の紹介」などに分け、短期で達成すべき成果(デッドライン付き)があるかを確認します。また経営の意思決定権や実行責任を放棄せず、外部提案を社内で素早く検証・実行する体制を整えることが成功の鍵です。

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 株式会社BELLETは、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

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